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零の音

瀬対ユウキによる【グローランサー シリーズ】中心非公式ファンblogです。

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AVENGERS小説【忘失と憎しみと板挟みと】

AVENGERS小説【忘失と憎しみと板挟みと】

キャプテンと社長。腐向けではありません。
キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャーのネタバレがありますご注意下さい。

『追記を読む(↓)』からどうぞ。



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幸いにも難を逃れたらしいニューヨークを襲った大事件の時と変わりないカフェの椅子に座り、スティーブ・ロジャースは溜息を吐き出した。テーブルの上に運ばれてきた珈琲は既に冷め、スティーブの溜息に小さな波紋をつくる。気が重い。珈琲を口に運ぼうとしてまたカップをテーブルに戻し、スティーブはその建物へと視線を向けた。ニューヨークに聳え立つスタークタワー。その最上階にあるトニー・スタークのプライベートルームを見上げて、スティーブは手を目の前に翳した。太陽の光が眩しい。こんな日には似付かわしくない天気だ、いっそ雨になればいいと眉間に皺を刻み、スティーブは結局 珈琲に一つも口を付けないままカフェの椅子から立ち上がった。

「あんた珈琲は苦手か?」

天上の髪を薄くさせた白髪の老人がにこにこと機嫌良く尋ねてきて、スティーブはテーブルの上に置いたままの珈琲を少し見なおして苦笑する。嫌いな訳ではない。ただ喉を通らないのだ。意識すれば、苦虫を噛み潰すようにじんわりとスティーブの心が暗く沈む。ふと思い立ったようにスティーブは老人に声を掛けた。

「良ければどうぞ。一口もつけてはいない。」

「それは知ってる。だから声を掛けたのさ。珈琲を頼んでおいて珈琲を飲まない。そりゃ、あれだ。心を閉ざしてる証拠だ。」

にかりと笑った老人は席に座り、ポケットから取り出した小さな瓶に指を突っ込む。四角い塊の砂糖を手に取れば、それを珈琲に入れて老人はずるずると啜る。

「心を閉ざしている?」

「そうさ。嗚呼。冷めた珈琲に砂糖を入れたってすぐには溶けやしない。砂糖を入れてやるならあたたかい内にさ。時間が経つと同じ物でも変わっちまう。」

老人が珈琲を啜った後にはほとんど形を損なわないまま、四角い塊を残した砂糖がカップの底に沈んでいた。「美味しかったよ。有難う。」と笑い立ち上がった老人にスティーブは小さく声を漏らした。

「なぜ砂糖を?」

「溶けないと分かってるのにか?溶けないかどうかは、そいつ次第だ。心を許してくれるかもしれんが、そうやって固まったままかもしれん。入れてみない事には分からんよ。ただな、そうやって踏み込んでみれば、目に見えなくても溶けた部分はある筈だ。必ずな。」

にこにこと機嫌良く微笑む老人は珈琲カップの底にある四角い砂糖の塊をスプーンで転がし、塊の下に隠れた崩れた砂糖をスティーブに見せて小さくウインクをする。「迷っているなら踏み込んでみればいい。」ぽんぽんと背を叩かれて、スティーブは小さく拳を握り締めた。決心は出来ていた。此処へ来る前からもう。報せるべきだと、彼には知る権利がある、と判断していた。ただ、その先にある未来に不安が過ぎったのだ。スティーブは決意に息を吐き出し、スタークタワーへと向かい歩みを進める。





スタークタワーのプライベートルーム。部屋へと入った途端、ガンガンと鳴り響く騒音に眩暈がしそうだった。彼の好きなロックバンドがうるさいくらいにスティーブの耳を刺激する。鼓膜を破壊する気かと文句を押し殺して、室内を見渡せば、目的の人物は部屋の中央で何かを熱心に造っていた。バチバチと飛ぶ紅い火花。これが彼の作業着かと疑いたくなるようなラフな格好で、こちらに気が付かないのか、トニー・スタークは椅子に座って黙々と作業を続けている。

「スターク!」

呼び掛けるが返事はなく、スティーブはさらに大きな声を張り上げた。

「スターク!!!」

ぴたりと動きがとまった背中。作業を中断し、くるりと椅子を回転させて振り向いたトニーはにっと悪戯っぽく笑い、天上に向かい指を小さく動かした。途端に室内の騒音がぴたりととまる。はあと呆れた溜息を吐き出したスティーブはまだ耳鳴りのする耳を僅かに指で押さえながら、トニーに真剣な眼差しを向けた。トニーは「話があるそうだな。どうした?」と余裕の笑みを浮かべ、火花から眼を守る為のゴーグルを外し、浮かぶ汗も拭わないままにスティーブを見据えてみせた。スティーブの強く握り締めた拳がぎちりと鳴る。

「こんな事を告げるのは君には酷だろうが、君には知る権利があると思った。だから伝えさせて欲しい。
ハワード・スタークは、君のご両親は事故死したんじゃない。殺されたんだ。」

そして、その犯人は、もしかしたら…と、そう口に出そうとしてスティーブは口を噤んだ。スティーブはトニーが驚愕に顔を歪ませるか、それとも、一瞬の困惑のあとに泣き出すかと思っていたのだが、当の本人であるトニーは「それで?」と何事もないかのように平然と聞き返してきたのだ。あまりの素っ気なさにスティーブの方が眉間をしかつめらせる。

「暗殺されたんだぞ?ハワードは…君の親だろう?悲しくないのか?」

眉間を歪ませ問うスティーブの語尾がキツくなる。しかし、トニーはふむと考え込むとくるりと椅子を回転させ、手にした機材をゆらゆらと撫で回しながら平然と笑ってみせる。

「事故があった当時、確かに私も暗殺や陰謀の可能性は考えていた。だが、それも有名税だ。有名人が暗殺されるなんて珍しい話じゃない。ケネディ大統領然り。ダイアナ妃然り。彼らと同格となれば随分と光栄な話だ。スティーブ。君は眠ったままだったから父…嗚呼、君にとっては戦友かな?のハワード・スタークに特別思い入れがあるのかもしれないが、私にとっては既に“過去の人”だ。過去の人物がどのように死んだか、そんなくだらない事に私は興味はない。彼らは死んだんだ。両親も今は二人仲良く天国さ。忙しい人達だったから今頃はゆっくり休めて、逆に暗殺者に感謝しているかもしれないな。」

「スターク!君には感情と言うものがないのか‼︎?」

震えた拳がとまらず、スティーブは声を荒げ叫んだ。ぴたりととまったスタークの笑顔が次第に興味なさげに虚ろになってゆく。さらには「感情?興味がないな。私は忙しいんだ。そんなくだらないお説教をしに来たのなら帰ってくれ。」とスティーブに背を向けるトニー。ふつふつと沸いた怒りがスティーブの心と思考を染めあげた。殴りたい衝動にすら駆られたが、当然私服であるトニーは現在アーマーを着ていない。一般人と同じスタークは殴れないとスティーブは奥歯を噛み締め、握り締めた拳を震わせた。ぽたりと頬から落ちた汗をトニーは拭わない。スティーブは「君がそんな人間だとは思わなかった。」と吐き捨てるように告げ、部屋を出て行こうとすれば、トニーは「それは君が勝手に想像したトニー・スタークだろう?まさか、君は私に泣いて欲しかったのか?随分とロマンチストだな。」と笑いを含めた声で嘲り、スティーブは怒りのままに部屋の扉を叩き閉めた。力任せにしてしまったがゆえに扉が小さく破損したが、スティーブは眉間を歪ませるだけで外へと向かいズカズカと歩みを進める。トニーを泣かせてしまうかもしれないとは思ったのだ。だが、こんな風に気持ちを踏み躙られようとは。怒りに支配されたまま、エレベーターで下へ降りようとして、スティーブはふと手を止めた。
脳裏に浮かんだのはあの四角い角砂糖だ。目に見えないだけで、溶けた何かがトニーにもあったのかもしれない。そう思えれば、スティーブはエレベーターの扉を無理矢理に開いて駆け出した。トニーの部屋の前。息を切らせないままに静かに耳を澄ませる。超人血清で研ぎ澄まされたスティーブの聴力を、トニーは知っていたから、些細な声の変化に気付かれないように予め爆音で麻痺させたんじゃないのか?まさか、汗も拭わずにいたのは涙を流しても気付かれないようにする為じゃなかったのだろうか?本当のトニーの気持ちは?過去の人物?そんな訳ないだろう?ハワードはトニーの父親なんだぞ?君は…本当は…!





「皮肉なものだが、エージェント・ロマノフに感謝だな。予め聞かされておいて良かった。」

はははっと渇いた笑いが漏れトニーはぐずぐずと床へと座り込んだ。ぽたり、ぽたりと瞳から流れた涙は床へと落ちてゆく。心配するようにキュウゥと機体を鳴らしたダミーは小さなアームを必死に動かし、トニーの頬を白いタオルで優しく拭った。

『トニー様、何故 あのような言い方を?例えご両親の暗殺に彼の親友が関わっていたとしても、貴方が諦める必要はないのでは?』

ジャーヴィスの言葉にトニーはくしゃりと弱々しく髪を掴んだ。

「私に“憎め”と言うのか、ジャーヴィス。憎んで、もし私が“彼の親友を赦せない”となれば、スティーブはどうなる?彼は親友を救いたがっているんだぞ?エージェント・ロマノフは事前に私に釘を刺しに来たんだ。私が、憎まなければいい。それで終わる。」

『トニー様…』

此処数日ずっと泣き腫らした瞼がまた赤みを帯び、悲痛に表情を歪め、ぽたぽたと溢れる涙をトニーは零す。ジャーヴィスはこの小さな泣き声が扉の外まで届けばいいと願うしかなかった。

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