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零の音

瀬対ユウキによる【グローランサー シリーズ】中心非公式ファンblogです。

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IRONMAN小説【記憶喪失社長と恋人執事】

IRONMAN小説【記憶喪失社長と恋人執事】

タイトルそのままに記憶喪失な社長と執事兼恋人なジャーヴィスのお話。ジャトニ。
べったりに見せ掛けてあまり明るいお話ではありません。


『追記を読む(↓)』からどうぞ。



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目覚めて最初に見たのは美しい碧い瞳だった。研摩された宝石のような澄んだ碧が観察するようにじっと私を見詰め、優しく微笑んでくる。

『おはようございます、トニー様。』

彼の名前はJ.A.R.V.I.S.。その名前を頭で反芻して、私はぼんやりと唇を動かした。

「おはよう、ジャービス。」

白い手袋を嵌めたジャーヴィスの指先が私の唇にさわりと触れてくる。もう1度と要求されて、私は僅かな発音に注意しながら唇を動かした。

「おはよう、ジャーヴィス。」

にこりと微笑んだジャーヴィスはまるでご褒美だとでも言うように私の髪にキスをしてくる。何かの軋む音が耳に留まる。そのまま手を差し出されベッドから半身を起こす。ふかふかな毛布。穏やかな朝陽。鼻腔にふわりと届く朝食の匂い。
嗚呼、また1日が始まる。
憂鬱に溜息を吐き出せばジャーヴィスは私の頬に手を触れて小さく囁いた。

『バイタルに異常はありませんが、気分でも優れませんか?必要ならば、ドクターを御呼びします。』

「必要ない。」

私の気分の問題だと気付いている。だから大丈夫だ。とそう告げてもジャーヴィスは私を心配してくる。拒否した着替えの手伝いを押し切られ、ジャーヴィスにシャツのボタンをとめられ、されるがままの私はまたそっと溜息を吐き出した。心配をされるのは苦手だ。
ジャーヴィスが心配になる理由は…まあ、分からないでもない。しかし過保護だとも思ってしまうのだ。

「ジャーヴィス。」

呼び掛ければジャーヴィスは私に着せた服の皺を手で撫で伸ばし『はい、トニー様。』と宝石のような碧い瞳を私に向ける。

「私は誰だ?」

『アンソニー・エドワード・スターク様です。
失礼致しました。トニー・スターク様と返答した方が貴方好みでしたか?』

「どちらでもいい。確認したかっただけだ。」

伝えればジャーヴィスは淡く微笑み、私の頭に触れて小さなピンを外す。するすると解かれてゆく私の頭に巻かれた包帯。裂傷はそれほど大きくはないが、化膿を心配する傷口に化膿止め薬を手にしたジャーヴィスの指が触れる。はしった痛みに肩を震わせれば、ジャーヴィスが宥めるように優しい手つきで私の肩を撫でた。
“敵”に襲撃され、私の記憶が失われて3日。傷は癒えはじめている。しかし、心がずっと自分の居所を掴めないままでいる。私の執事であり、“恋人”であるジャーヴィスは私に優しく、そして過保護だ。真実を伝えてはくれない。

『時刻は午前7時58分。約束の時間まであと2分です、トニー様。』

新しい包帯を巻き終え、胸ポケットに入れた懐中時計を開いて私に見せてきたジャーヴィスに私は立ち上がった。ぺたぺたと裸足で屋敷内を歩き、リビングルームを目指す。海がよく見える美しいリビングルームに、行儀よく座っていた男が私の足音に振り向いた。

「トニー。どうだ、記憶は?」

来客者の男に問い掛けられ私は無言で首を横に振る。此処連日お決まりになりつつある私の仕種だ。彼らは揃って私の記憶を取り戻したいらしい。テーブルの上に散りばめられた写真に憂鬱から頭が痛むような気がした。
1枚の写真を手に取り、カメラに笑顔を向けた私を見据える。嘘っぽい笑顔。つまらなそうにはしゃぐ私の姿。彼らが求めているのは“記憶をなくした私”ではないと気付いている。必要とされない私。価値のない私。
手にした写真を真ん中で破り、空に投げ捨てる。驚いた彼は目を丸くして私に「おいっ!何をするんだ、トニー!」と突っ掛かってきた。

「写真うつりが悪い。」

しれと答えれば、無表情を貫いていたジャーヴィスが微かな笑みの声を漏らした。来客者である彼は「本当に記憶がないのか?」と疑わしげに眉間を寄せながら私を見据えてくる。

「記憶がないと言うのは正確ではないな。私には一般的な生活を送るだけの記憶は残っている。食事も、運動も、SEXだって出来るし、それを行う為の知識もある。君よりも豊富な経験の自信もあるが?」

来客者である彼はいよいよ唇を歪ませて私に向かって溜息を吐き出した。それが釈に触り私はさらに口を動かそうとする。

「君は…」

「分かったから、落ち着け。ほら。」

私の言葉を無理やりに遮り、苛立ちを宥めるように差し出してきた箱はピザの箱だ。一瞬眉を潜めれば男は私の言いたい事が分かったらしく、テーブルの上に箱を置き、蓋を開いた。香ばしいチーズの匂いが鼻腔を刺激する。私の好みも熟知しているらしい男は「どうだ?」と言わんばかりの得意げな表情で私を見据えてくる。

「ピザは冷めたら美味しくない。」

口実だけを告げて、手を伸ばしピザの1片を掴もうとすれば腰を掴まれてソファーに引き寄せられる。ふわりと腹を抱き寄せられてジャーヴィスの膝上に座らされた私はお預けを喰らい拗ねたようにジャーヴィスを睨んだ。

『トニー様の指が汚れますので。』

優しく告げられ、口元に運ばれてきたピザが再び私の鼻腔をふわりと擽る。噛り付けばカリッと鳴るパンの歯ごたえと、舌に広がるとろりとしたチーズの甘みに満悦していれば、ジャーヴィスは何処までも愛おしむような眼差しを私に向けてくる。
この男は私の何処が気に入ったのだろうか?同性で、私の年齢だって決して若くはない。ナルシストで我が儘な性格なのも認めよう。私自身に魅力がないとは言わないが、それが同性にまで影響するとは思えなかった。

『貴方はとても魅力的ですよ、Sir。』

思考を読んだように突然ジャーヴィスに耳元で囁かれて私は小さく体を震わせる事になる。私好みのとろけるように甘く、それでいて包み込むような心地の良い低音。完璧すぎる私好みのジャーヴィス。両腕をジャーヴィスの首に回せば、服の隙間からするりと侵入してきた指が私の臍をゆらりと撫でてくる。

「おい。此処でおっぱじめる気なら帰るぞ。」

苛立ちを隠さないままに告げてきた来客者の男に、私はひらりと手を振り「さっさと帰れ。」と合図した。顔を歪ませて、溜息を吐き出した来客者の男はソファーから立ち上がりリビングルームから立ち去ろうと歩き出す。こつこつと遠ざかる足音。それがぴたりと止まった事に気が付いて私は指先にさらに力を篭めた。

「思い出したのか?」

「いいや。だが、J.A.R.V.I.S.が何者かは知った。」

私に優しく微笑むジャーヴィスの首を力の限り強く締め、感じない体温と血液の鼓動に私は小さく絶望する。成る程と。“これ”は私が造った“私だけの恋人”だ。私が傍に置いた理由が分かる。

「トニー。死ぬ事のない機械がいいとは俺には思えない。お前は人間だぞ。」

釘を刺すように、こちらを振り向かずに告げる後ろ姿に、私は自嘲しながら言葉を投げ捨てた。

「嗚呼、分かってるさ、ローディ。
それでも、大切な人達を護れないのなら記憶ごと損失した方がマシだ。」

破り捨てた写真がひらりとソファーから揺れ落ちる。大切な人達だったのだろう彼らを私は思い出せない。敵の襲撃から護りきれたのか、それとも失ったのか… 優しすぎるジャーヴィスは私に真実を伝えてはくれない。
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